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−PART1−

 近年、なぜアルヴァ・アアルトが再び評価されているのか?それは、単にモダニズム再考という流れでくくられるものではない。アアルトは言うまでもなく、近代建築の巨匠の一人として位置づけられている人である。でも、決してコルビジェやミースのような理念中心の建築家というわけではない。

 建物はどんなものであれ、実際に訪ねてみなければその本当の良さはわからない。アアルト場合、特にそれが顕著である。理念ではなく、出来ている空間の質が全て。建築とは究極的にはそのようなものなのだと思う。

日程

1999年6月21〜28日(ただし自分は27日にツアーから離脱し、7月3日まで旅行を続けた)

6月21日 成田〜パリ〜ヘルシンキ

 直行便でないので、丸一日がかりの移動。異常に疲れる。フィンランドをはるか通り過ぎパリまで行ってまた戻るのはいくら安いからとはいえ、なんか納得がいかない気分。でも、そのおかげで帰りはパリへ寄れることになったのだから恨みっこはなしにしよう。

6月22日 ヘルシンキ アアルト三昧

訪問地

フィンランディアホール:ヘルシンキ、1967〜1973

厚生年金会館:ヘルシンキ、1952〜1956

文化の家:ヘルシンキ、1955〜1958

アアルトのアトリエ:ヘルシンキ、1954

オタニエミ工科大学本館・図書館:オタニエミ、1961〜1969

学生礼拝堂(シレン):オタニエミ、1953〜1957

ヴィトレスク博物館(エリエル・サーリネン):ヘルシンキ郊外、1902

テンペリウキオ教会(スオマライネン兄弟):ヘルシンキ、1961〜1969

鉄の家:ヘルシンキ、1954〜1955

アカデミア書店:ヘルシンキ、1961

 

 

フィンランディアホール、厚生年金会館、文化の家

 いきなり初日から、アアルトづくしアアルト三昧だ。フィンランディアホールは思ったよりずっと大味で巨匠もこんなものかと思ったが(失礼!)、厚生年金会館、文化の家はさすがにきめ細かくできていた。いずれも内部のスケールが思ったよりもずっと小さくこじんまりとしている。吹抜の部分が高いのは当然としても、一般の天井高はかなり低く押さえられていてメリハリが効いている。最も低い部分などは北欧の大男の頭がつっかえそうな高さしかない。

 天井高っていうのは、なんとなく高いほうが気持ちがいいっていう常識があるけど、そういう常識も徹底的に見直さなきゃいけないという感じがした。ジャン=ヌーベルのアラブ研究所の天井も異様に低くて、一階の天井高なんて2100以下だけど、ここはそれほど極端じゃなくとも、低いところは多分2200ぐらいしかない。

 アアルトは空間の高さをうまく演出する建築家である。そして上からの光を重視する。ハイサイドライトの場合もあるが、トップライトを実によく使う。そして大きい建物ほどトップライトを多用する。もちろん、フィンランドの寒く暗い冬を少しでも明るくするためだが、雪があまり降らず、夏の太陽高度があまり高くならないこともトップライトにとっては有利な条件となっている。

 フィンランドはご存じのように北緯60度〜70度という高緯度に位置する国。だから、太陽高度は夏至でも最大で50度くらいしかならない。夏、冬、両方のことを考えても、トップライトというのは実に素直な選択なのだ。たいていは2重かそれ以上になっていて、奥行きもかなり深く取られている。断熱のためというのが、第一の理由。それと、夏の太陽の直射をカットするという意図もあるのだろう。彼の一番のお気に入りはおなじみの丸いトップライト。今回の旅行でも飽きるほど見させてもらったけど、中には数が多すぎてちょっとやりすぎというものもあったのは確かである。

フィンランディアホールの表側。最近表面の大理石を全て張り替えたので非常にきれい。 

厚生年金会館の図書室。スケール感が非常に良く、あえて一段低くして本に囲まれた感じを強調している点はさすが。

アアルトが多用する丸いトップライト。ちょっとやりすぎの時もあるけどこの建物の場合はかなり効果的。(厚生年金会館)

自立的な表情を持たせた階段。鉄と木のマッチングが実にいい。(厚生年金会館)

家具もはもちろん自分がデザインしたものを入れている。(厚生年金会館)

文化の家(フィンランド共産党本部)の入口。奥が建物の入口。

アアルトの入口にはほとんど庇がない。(文化の家)

天井を一部むき出しにして変化をつけている。(文化の家)

文化の家の内部にあるホール。天井につけられた照明が面白い。

 

アアルトのアトリエ

 アアルトのアトリエはヘルシンキ市内の高級住宅街の中にある。こじんまりとしたたたずまいで、白く塗られたペンキが彼の作品であることを静かに暗示している以外、これ見よがしなものはなにもない。極めて住宅なスケールを持っていて、事務所というよりもまさにアトリエといった佇まいである。死後20年以上が経っているというのに事務所としての活動は続いていて、彼が設計した建物の保存、保守の仕事を今でも継続してやっている。考えてみれば当たり前のことかもしれないが、よほど存在価値が認められていないと、個人の建築家でそのようなことは出来ないと思う。

 内部はいくつかの部屋に分かれているが、あくまで自然につながっていくのが彼の空間の真骨頂で、平面図を見ればそのことは一目瞭然だが、ギザギザの壁面、アール屋根、壁際に取られたトップライトなどの彼独特の空間言語も変化をつけようというよりは、むしろ空間の自然な流れとして導き出されたように感じられる(だからうまいといえるんだろうが)。

 自然な造形や流れるような空間、大きすぎないスケール感などは我々日本人にもなじみやすい空間感覚だ。実際、アアルトは日本の空間からかなり影響を受けていて、和風の要素が感じられる建物もある。ただ、内外の空間の連続性があまりなく、ガラスによって視覚的な開放感が確保されつつも内外の一線がはっきり引かれている点は、日本的な空間とはかなり異なる印象を受けた。気候の問題もかなり大きいと思うけど、その辺の空間感覚はやはりヨーロッパのものである。日本の場合は、高温湿潤な気候ゆえ、単に視覚的な開放感だけでなく、通風を取ったり実際に出入りできることも重要な要素なのだ。でも、ここではとにかく冬のことを第一に考えなくてはならないという感じがした。

道路から入口へと向かう。

アアルトが使っていたアトリエの内部

作業室内部。作業しやすそうなスペースだ。天井までの開口。

庭側からアトリエを見る。写真では良くわからないが、自然風にデザインされた庭がすごく気持ちいい。

食堂。アアルトはいつも一番奥に陣取っていたそうである。でも、こんな小さい事務所で食事まで一緒にしてたら息が詰まるんじゃないかとついついよけいな心配をしてしまう。

壁際にトップライトを取り、光を導いている。

彼の照明は天井面から出っ張ってくるものが多い。

アアルト定番の取手。これは2段重ねバージョン。

 

オタニエミ工科大学

 オタニエミはヘルシンキの郊外にあり、田園都市で有名なタピオラから目と鼻の先にある。オタニエミ工科大学のキャンパス計画と数多くの建物をアアルトが手がけている。アトリエの印象が強かったので、大規模な建物を見てもまあこんなもんかといった感じではっきりいってそれほど印象深いものではなかった。もちろん、それは比較の問題でそれなりにレベルが高いことはいうまでもないことではあるが、見学というものはあまりたくさん見過ぎると個々の印象が薄まるというのも注意しなくてはならないと思う。

講堂の外観

講堂の内部

深さのあるトップライト

 

学生礼拝堂(ヘッキ=シレン)

 アアルトは一休みして、ヘッキ=シレン作のチャペルを紹介したい。この建物の竣工は1957年、40年も前の建物だが、2、3年前に作られたものといわれても納得してしまうほどモダンでシンプルな建物である。現在の建物は火事で焼失して建て替えられたものということなので、そのせいもあるのかもしれないが、それを割り引いてもデザイン自体が全く古さを感じさせないのはさすがである。外の十字架を切り取られた窓から望む構成は日本の某建築家の作品にも登場するが、そのオリジナルであると密かにささやかれているようである。

アプローチから

ガラス越しに十字架を見るモダンな空間。

集成梁の屋根架構も実に軽やか

 

テンペリアウキオ教会(スオマライネン兄弟)

 フィンランドは氷河期には国土全体が氷河で覆われていたため、土という土は全てドイツまで押し流され岩盤だけが残った。今でも地面をちょっと掘ると岩が露出し、露出した岩も街中の至る所で見ることができる。日本ではいかに支持地盤まで基礎を到達させるかが常に課題となるが、ここでは基礎を直接岩盤に固定すればそれで終わりである。むしろ岩盤を掘らなければならない場合の方がはるかに大変なのだ。従って、この国では岩盤掘削技術が非常に発達した。フィンランド製の掘削機は日本の地下鉄工事などでも使われているそうである。

 テンペリアウキオ教会は街中に露出している大きな岩山をそっくりくり抜いて作られた地下の教会である。とにかく、岩盤をくりぬいて中央部にお椀のような屋根がかぶせただけ。光は屋根と岩盤の隙間から取り入れられる。単純と言えば単純だが、岩に囲まれた空間は力強く、シンプルで非常に説得力がある。屋根をまわりから支えているのはトップライトの方立だけなので、屋根だけが浮いて見え、回りの岩の重厚感と極めて見事な対比を見せている。回りがすべて岩なので音響効果も抜群で、パイプオルガンの音も実に良く響く。オルガンのデザインも極めて秀逸で素晴らしいものだった。

入口

お椀のような屋根と岩盤の隙間から光が降り注ぐ。中はとても明るい。

パイプオルガン

 

 

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