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−PART2−

6月23日 ヘルシンキ〜ユバスキュラ

訪問地

ヘルシンキ都市計画局訪問

ヘルシンキ現代美術館<KIASMA>(スティーブン・ホール):1998

ユバスキュラ教育大学:ユバスキュラ、1952〜1957

アアルト美術館:ユバスキュラ、1971

中部フィンランド民族博物館:ユバスキュラ、1959〜1962

夏の家:ムーラッツァロ、1952〜1954

 今日は、ヘルシンキからフィンランド中部の都市、ユバスキュラまで行く。北欧だというのにとにかく暑い。気温は30度近くまで上がり湿度も高い。しかもどこもかしこも冬の断熱重視なので、FIX、ペアガラスである。通風がなくおまけにエアコンもない。じめじめとした梅雨時の日本を脱出し、高原のようなさわやかな気候を期待してたのにガッカリ。でも、ここのところの気候は特別なんだそうで少し納得する。

 フィンランドに来てまだ3日目なんだけど、アアルトの作品を昨日一気に7つも見たので、早くも8つ目のアアルトである。巡礼とはいえ少し多すぎないか?似たような建物でも少しずつ違っているので、それなりには興味深いが少し飽きてきたのも事実である。だいたい一人の建築家で8つも作品を見た人がいったい何人いるのだろうか。僕の場合、丹下健三と磯崎新ぐらいだと思う。安藤忠雄だって8つは見ていない。この旅行が終わる頃には最も多く作品を見た建築家はアルヴァ・アアルトということになっているはずだ。

アプローチから見るアアルトミュージアムの外観。ホームページもある。

http://www.jkl.fi/aalto/

彼の建物には繰り返し登場する耳のような形をした取っ手。2段重ね、3段重ねというのもある。でも、4段重ねというのはついに見かけなかった。

 

今回のツアーを主宰された3人の方々。左から中谷さん、加藤さん、相沢さん。

 

夏の家(コエ・タロ)

 フィンランド人はセカンドハウスを皆持ちたがる。日本とほぼ同じ位の国土面積に住む人間はわずか500万人。従って、人口密度は日本の25分の1。これだけ低密度だとそれも夢ではない。良い別荘には、3つ条件があるそうである。ひとつは、湖に面していること。もう一つが、サウナがあること。3つ目は隣となるべく離れていること。このなるべく離れているという感覚がこちらでは数キロというスケールなのだそうだから驚きである。

 アアルト自身の別荘である夏の家(コエ・タロ)はもちろん、この3つの条件を満たしている。アルヴァ・アアルトミュージアムのメリーさんの案内で、夏の家(コエ・タロ)へと向かう。ユバスキュラからバスでほんの数十分の距離である。もう6時をまわっているというのに、まだかなり陽が高く、日本の感覚では3時頃とといった感じである。バスを降り、気持ちのよい木立を歩くこと数分。木立の中にコエ・タロはあった。

 外壁は煉瓦だが外側は白ペンキが塗られ、中庭側は煉瓦がそのまま使われている。ここで彼は様々な種類の煉瓦を実験的に使っている。中庭側の面には様々な種類の煉瓦をパッチワークのように貼り分けているが、それが調和がとれていて実に美しい。

 内部は巨匠の別荘とはいえ、極めて簡素な作りで、こじんまりとしたスケールである。我々が住んだとしても全く抵抗がない。そんな感じを受ける。

 アアルトの建物は常に人に近いところにある。建築が特別な存在として際だっていない。おそらく、彼は建築を表現物として体から離して眺めるのではなく、衣服のように人に寄り添う存在、肌で感じる存在としてとらえているのだと思う。

 なお、コエ・タロについては、コンフォートN0.30(建築資料研究社)の中村好文さんの連載(住宅巡礼シリーズ)に詳細なレポートがある。

アプローチからコエ・タロを見る。

左手から回り込むと中庭がある。

玄関。といっても、庇もなく入口といった方が正確。雨も雪も少ないフィンランドでは庇の必要度は低いのか。

居間を上から見る。吹抜といってもそんなに大きなスケールではない。

彼はここへ来るのにこの岩の下の桟橋に自家用ボートで乗り付けた。湖畔には人工物は全くなく、遙か彼方に自分の設計した教会の塔が見えるのみ!!

アアルトが使っていたボートとしまうボート小屋。コンペで選ばれた学生の設計。

 

6月24日 ユバスキュラ〜トゥルク

訪問地

労働者会館:ユヴァスキュラ、1924

ユヴァスキュラタウンシアター:ユヴァスキュラ、1975

セイナッツァロの村役場:セイナッツァロ、1950〜1952

マイレア邸:ノールマック、1937〜1939

 

ユバスキュラタウンシアター

 ユバスキュラの中心部にアアルトの建築群が固まっている一角がある。タウンシアターはその中のひとつで彼の遺作となった建物である。アアルトはいくつものホール建築を手がけていて、今回の旅行でもその中のいくつかを見たが、その中では最も好ましいスケールを持ち、最もバランスの取れた建物だった。ただ、建物としてのレベルは高くとも、残念ながら彼自身として何か新しいことに取り組んだという印象はあまり感じられない。外壁のタイルがPC板に貼り付けられている(打ち込みではないようだ)のが構法的に目新しいぐらいで、後は見慣れたアアルトデザインの集積といった感じである。いくら巨匠でも、人間年をとると新しいことに挑戦することはやはりできなくなるのだろうか?

 ここでは建物よりもむしろタウンシアターの責任者から伺った運営の話の方が興味深かった。こんなちっぽけな街に立派なオペラ劇場があるのも驚きだが、もっと驚くのは裏方の充実ぶりである。なんと一つの劇場に60人の専属スタッフがいるとのことである。専用の大道具制作室、衣装制作室も立派なものが用意されていた。

外観

ホワイエの開口部。例によって天井の表情に変化がつけられている。

手摺りにも見るべきものがある。

ホワイエ。ハイサイドライトもアアルトが得意な手法。

大道具制作室。ちょっとした木工所の雰囲気。

衣装制作室で説明を聞く参加者の面々。

 

セイナッツァロ村役場

 セイナッツァロまではユバスキュラからほんの数十分。アアルトの村役場は垂直の木立の向こうに好ましいスケールで現れた。煉瓦積みのこの建物は色彩的にも木立の緑と非常に良く調和する。建物は中庭を囲むように配置され、丸々一層分の盛り土になっている上が中庭になっている。中庭に面するのは2階のレベルで、メイン玄関も2階にあるが、外側からは一階のレベルへ直接アプローチすることもできるようになっている。

 中は外観よりもっと印象的である。図書館や廊下やいくつかの小部屋も良くできているけど、もっとも圧巻なのは議場とそこへ至るアプローチである。壁際を曲がりつつ階段を上がって行くアプローチは両面壁に囲われているが、天井に沿って水平に光が取り込まれているので、全く堅い印象はない。微妙に変化する天井面に対して、ルーバー越しに降り注がれる光の束が実に美しい表情を見せている。議場はぐっと照度が落とされ暗がりが広がる空間。天井がかなり高い。開口は側面の格子窓と、もう一つ壁に穿たれた小さい窓があるのみである。格子窓は角度が異なる何種類かのルーバーの組み合わせからなっていて、角度によって見え方や光の表情が変わるように考えられている。このあたりはかなり芸が細かい。

 アアルトはルーバーを多用する。ルーバー越しの光は方向性が生じ、束としての表情を持つので、マットで均質な光にはない微妙な表情が生まれる。彼はそういう質の光をおそらく好んだのではないかと思う。

外側から中庭へ上がる階段を望む。奥が議会棟。

棟状の議会棟。議場は3階。

議場へのアプローチを振り返ったところ。右手が議場の入口。光の入れ方が素晴らしい。

議場の側面の開口。ルーバーによって光の表情が微妙に変化する。

会議テーブルとライトのデザイン。

縦長にくり抜かれた欄間。このモチーフは彼のテキスタイルデザインにも登場する。

 

マイレア邸

 いよいよ、今回の旅行のハイライトであるマイレア邸を訪ねる。フィンランド特有の垂直な木立が立ち並ぶ、落ち着いた雰囲気の場所である。おそらく別荘地なんだろうが、隣との距離が異常に離れているので、回りは全く木立しか見えない。緩やかな斜面を少しずつ登っていくと、木の間越しに目指す建物が見えてくる。マイレア邸はフィンランドでは珍しく小高い丘の上にある。オーナーは落水荘がいたく気に入っていて、最初は似たようなロケーションを探したそうだが、結局今の場所に落ち着いたそうである。さすがにフィンランドで滝が作れるような場所を探すことは容易ではなかったに違いない。

 約束の時間より早く着いたので、外側をぐるりと回ってみることにする。表側はのっぺりした面に出窓が4つついている。庭側へ回ると一気に視界が開け、プールに対してL字に構える構成となっている。表側は閉鎖的、内側、裏側に対して開放的というのは彼の常套的なやり方である。

 時間になったので、いよいよ内部へと入ることになった。エントランスは人を包み込むような柔らかい雰囲気を持ち、単なる導入という以上の空間で、それ自体がひとつのスペースとして成り立っている。2段に分かれた庇の隙間からは光が柔らかく取り入れられ、その庇を支える柱は細木を束ねたもので、向かって右手の方はスクリーン的な扱いになっている。床にしかれた切石も実に自然な感じでさりげない。気持ちが妙に落ち着く不思議な空間である。

 がっしりとした木の玄関扉を開けると狭い空間にトップライトの明かりがぽっと灯された実に印象的な空間に出る。もう一枚扉を開けると、視界が開け、この建物の中心となっているリビングダイニング部分に出る。ここはため息が出るような素晴らしい空間である。扉のデザインが一枚一枚異なっていたり、天井や床も場所によって素材が貼り分けられていたり、部分部分で異なったデザインがされているけれど、流れるように実に自然な表情を持っていて、全体として全く違和感がない。しかもそれが実に落ち着く空間なのである。

 モダンな建物では往々にして全体の統一性を優先しがちで、われわれの中にも統一的でないと不安になるような感性がかなりの部分染みついてしまっているけれど、この建物を見ていると、実は建物のデザインが統一的であるかどうかなんて空間を感じる側からすれば全く関係のないことのように思えてくる。違和感が感じられなければ、むしろ部分部分は違っていた方が面白いし、場所によってデザインを変えないのは、デザイナーの怠慢か形を作る能力の欠如でしかない、そんな感じすらした。

 スケール感覚も絶妙で天井高が3.0mもあるのに、豪邸にありがちなしまりのない感じが全くなく、空間がゆったりしていながらだぶついている感じが全くないのは、さすがといわずしてどう言ったらいいのだろう。

 エレベーションも図面的な見方からすれば、決してまとまりがあるとは言えない。でも、だからといって変かというと、できあがった建物として見るとちっとも変ではない。

 それはおそらく、アアルトの建物が頭で考える類の建物ではないからだと思う。つまり、建物を見て考えてどうこうというのではなく、そこに入って感じたとき良く感じられればそれでいいのである。また、建物がそれ自体で主張する建物でもない。もちろん、建物は質の高い作品としても存在しているけど、人や家具が入るとじゃまになってしまうようなそういう類の建物ではない。えっ。そんなこと当たり前のことじゃないの?建物ってそういうもんじゃないの?当たり前のはずだけど、でも、悲しいかな「建築」の世界ではそれが当たり前ではなくなってしまっている。だからこういう建物をわざわざ見に来るんだと思う。きっと。

垂直な木立の中にたたずむマイレア邸

外観はとりたてて魅力的には見えないが・・・。

アプローチから玄関を見る

玄関ホール。トップライトが実に効果的。

玄関からリビングルームへと上がる階段

有名なリビングルームの階段。周辺の木立を連想させる。残念ながら2階へは上がらせてもらえなかった。

リビングルームからミュージックルームを見る。名前は分かれていてもひとつながりの空間。

ミュージックルーム

ダイニングルーム

庭側の外観。プール越しに建物を見る。

 

  

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