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 アアルトツアーの自由行動時間と延泊した日を利用して、ヘルシンキの都市計画プロジェクトをいくつか見てきました。(1999/6/26〜28)

 

◆市域全体の話

 ツアー中にヘルシンキの都市計画局の局長さんから概論的な話を伺うことができた。歴史的な経緯の説明、市域構造の把握と都市計画としての措置を市がどのように行ってきたかという話が中心で大変わかりやすい内容だった。最も印象に残ったのは、街を拡大して行く過程でかならずグリーンベルトをはさんでいくという考え方である。この方法によるとどこにいても常に身近に緑地をもてるし、グリーンベルトだけを延々と歩いて他の場所へ行くこともできる。防災上も有利だし、風景としても面白い。単純な考えだけど、実際に実現できているところが素晴らしい。

市域全体の35%を緑地が占めるというヘルシンキの広大なグリーンネットワーク

◆ヘルシンキ市の概要

 ヘルシンキはいうまでもなく、フィンランドの首都。「バルト海の白い乙女」という名のごとく、森と湖の国の首都にふさわしい緑豊かな港町である。フィンランドの全人口500万のうち、約1割の約50万人がこの街に暮らしている。

 歴史的には、1550年に建設され、1812年にロシア皇帝が対抗を兼ねる自治国となって、首都として定められた。市の中心部の骨格は、19c〜20cの初期に形作られている。第2次世界大戦以後に都市域が膨張し、建物の2/3は戦後作られたものである。

 ヘルシンキ市都市計画局は1964年に設立され、以来、市内の土地利用や交通計画、畜生再計画を担当しているそうである。特徴的なのは、市域の65%が市有地であるという公共用地率の高さを生かした公共主導の強力な街づくりを推進しているという点である。土地代が安いとはいえ、公共用地を次々に売却し、経済原理優先の街づくりを進めている日本とは極めて対照的である。

市電も走るヘルシンキ市街

湖もある広大なグリーンベルト

 

◆タピオラ:Tapiola,1953〜

 フィンランドの都市計画で最も有名なのがおそらくタピオラだろう。ヘルシンキ郊外に作られた総面積230haのニュータウン開発である。ガーデンシティーとして名高いこの街は現在でも十分低密度に見えるが、現地では既に飽和状態であるとみなされているそうである。時間がなかったのでちょっと立ち寄っただけだが、空間的にはそれほど面白いという感じではなく、とにかく緑が多い街という印象だった。

 

◆ルオホラハティー:Ruoholahti,1990〜

 ルオホラハティーは市内のはずれにある港湾施設の移転に伴う再開発で1990年より建設が始まった。主にオフィスとハウジングからなる居住人口9,000人、就業人口3,500人の街である。

 オフィス地区と住宅地区は道を隔てて分けられている。オフィス地区の方はまだまだ建設中だが住宅地区の方はかなり完成に近づきつつある。

 住宅地区は基本的に囲み型の形式によっていて、全体の雰囲気は幕張ベイタウンに極めて良く似ている。1ブロックのサイズ(概ね70m×90m)、階数(6階)、隣棟間隔(17〜20m強)等はほとんど同じようなスケールで、整然と格子状にブロック割りされている点も同じである。ただし、容積は幕張の場合が駐車場を全て各街区内でまかなっているのに対し、こちらの場合は隣接した場所や路上に取っているので、理屈上はその分だけ低くなるはずである。容積率は90%〜100%とのことだが、NET(純粋に住宅部分を分母とする)だとすると若干低いような気がする。おそらくセミグロス(全宅地を分母とする)として見た数値ではないかと思うが確認はできていない。

 外部空間のデザインはあまり質が高いとは言えない。街の骨格が単調で中庭も全部が均質な感じなので変化に乏しく、おまけに完成して間もないとはいえ緑が少なすぎる。緑が多ければもっと街路も中庭も潤いのあるスペースになるのに、ドライ過ぎてどこも落ち着きのない味気ないスペースとなってしまっている。住宅地内に運河を取り入れたのは評価できるが、これも空間的には単調であまり楽しい水辺とはいえない。森と湖の国に似つかわしくない空間になっているのは非常に残念だった。

 建物のデザインも色彩こそ比較的押さえられているものの、表現がどれもゴテゴテし過ぎて落ち着きがなく、少なくとも外観はあまり感心できるレベルではない。建築のレベルが高い国だと思ったのにどうも腑に落ちない。不動産開発となると付加価値を重視するあまりついつい過剰な表現となってしまうのはどこの国でも同じ事情なのだろうか。

運河から見た住宅地区。せっかくの水辺なのにリッチとは言えない。

これだけ地面に緑があるのだからもう少し高木を植えてもいいと思うのだが。

中庭。パーキングが併設されているせいかここも緑が少ない。向かいの住戸が丸見えで落ち着かない。

1つのブロックを見る。道路が広い割に緑が少ないので、建築ばかりがよく目立つ。とにかく、デザインが堅い。

スリット上の部分が通り抜け通路となっている。上はガラスで囲われたサンルームとなっている。

 

 

◆イタパシラ:Ita-Pasila,1972〜1980

 パシラというのは、ヘルシンキ中央駅から3km離れた一つ目の駅である。巨大な操車場を挟み東西に街が作られている。東側をイタパシラ。西側をランシパシラと呼んでいる。イタは東、ランシは西という意味である。両方の開発ともにオフィスと住宅を混ぜた開発である。駅側をオフィスブロックとしている点やブロックの大きさなどには共通点もあるが、イタパシラの方が先に作られ、その経験と反省がランシパシラに生かされたため、できあがった空間はかなり異なったものとなっている。時系列的に異なる2つの街を同時に見るのは非常に良い経験となった。

 イタパシラは日本でも高度成長期にはやったいわゆる人工地盤の街である。デッキ階は人、下が車のための空間で、歩車分離が実現されている。しかし、多くの人工地盤の街がうまくいっていないように、ここでもうまくいっていない。歩車分離することで、車道レベルは倉庫街のように寂しい壁面が続く空間になっていて、逆に歩道レベルは街路というよりは団地内の通路といった感じで、街なのに全くアクティビティーが感じられない空間となっている。また、歩行者デッキはRCむき出し(打放しではない!)の極めて安普請なもので、日本のようにやたらに高価な金属パネルを貼るのも考えもんだけど、やるならもう少し質感を高めないとこれではいかにも貧相な感じがした。

 ブロックのサイズはルオホラハティーやランシパシラとあまり変わらない。しかし、10階以上の高層建築が中心となっているので、街の密度感は両者よりかなり高い印象を受ける。

倉庫のような1階の壁面。歩行者デッキはコンクリートむき出しで貧相。ちょうど補修の最中。

下から見あげた歩行者デッキ

緑は多いが活気のない歩行者空間。

まるで高速道路のように感じられる地上の道路。

高層中心なので全体の街のスケールがかなり大きく、ヒューマンな感じはない。

デッキレベルから車道を見下ろす。

 

◆ランシパシラ:Lansi-Pasila,1977〜1985

 ランシパシラはイタパシラの様々な問題点を改善して作られた街である。まず、人工地盤をやめ、歩車共存とした。ただし、駐車場を外周道路や地下に設け、ブロック内の車の乗り入れを制限した。視線がどこもかしこも抜けてしまう直交する街路割をやめ、道を少し曲げて、風景に変化を持たせている。緑もたくさん植えられていて、外部空間に落ち着きがあり、囲み型にもかかわらず向かいの住宅の視線が気になることもない。また、ここは敷地にゆるやかな高低差があるのでこれも非常に利いている。ところどころにフィンランド特有の岩盤が露出しているのも非常に面白い。

 建物の階数はルオホラハティーよりも若干低い4、5階のスケールである。6階と4、5階では大して違わないように思われるかもしれないが、スケール感という意味ではこの差は意外と大きい。個々の建物はとりたててどうということはないけれど、押さえの利いたシンプルなデザインで非常にうまくまとめられている感じがする。

 ルオホラハティーの場合は建物が賑やかなわりに外部空間や街区割りが単調で、こちらは逆に外部空間や街区割り自体に変化があって建物の表現は押さえられている。その方が健全な感じがするし、できあがった空間も質が高い。ただ、これだけ緑で建物が隠されるのなら、個々の建物にはもう少し表現のバリエーションがあってもいいようには感じられた。

緑の多い街路。ここは車道。

道が曲がっているので、空間的に変化がある。ここは歩行者専用のようである。

道が曲がっているので、空間的に変化がある。ここは歩行者専用の道。

このように至るところで岩盤が露出する。

街区内の広場。舗装が高級でなくとも、こういうちょっとした広場は気持ちがよい。

この建物は一部コンクリートが使われているが、外壁はほとんどが煉瓦。

 

 ヘルシンキにはこの他にも大小交えてたくさんの都市開発プロジェクトがある。しかし、興味を引いたのは、個々の事例よりもむしろ市域全体での都市計画の方だった。本音と建て前がぐじゃぐじゃになってわけのわからない状態となっている日本に比べると、ここでははるかにわかりやすく説得力のある政策が行われている。もちろん、低密度であることが有利な条件であることは間違いないが、それだけで片づけられるべきではないという感じがした。

参考文献:ヘルシンキ/森と生きる都市 日本フィンランド都市セミナー実行委員会編 市ヶ谷出版社

 

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